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東京地方裁判所の法廷。東日本新聞・社会部遊軍記者の永尾(ながお)賢治(けんじ)(40)は、殺人罪の容疑で裁かれる男の背中を見続けていた。彼の名前は、竹藤樹生(たけふじみきお)(40)。プロ野球球団パイレーツに、わずか1年だけ所属した投手だった。竹藤は伝説のエースナンバー「18」を背負い、周囲の期待を裏切ることなく1年目から大活躍。22勝をあげて新人賞やMVPなどを総なめにした。だが事件は、そのオフシーズンに起きる……。
当時、横浜支局の新米1年生記者だった永尾が、球団関係者からの「野球賭博」の情報をもとに“世紀のスクープ"を放ったのだ。世間は大騒ぎ。賭博に関与した現役選手5名が球界から永久追放されることになった。そのひとりが、今目の前にいる竹藤だった。
先輩に誘われ仕方なく付き合っただけだった竹藤は、逮捕されたものの「起訴猶予」となった。しかし竹藤に、野球選手として名誉を挽回するチャンスは与えられることはなかった。
当時、新米記者の永尾の仕事は、ジャーナリストたちから喝采された。永尾本人も、心の中で有頂天になった。しかし心の片隅では、同い年の有望なプロ野球選手の人生を、台無しにしてしまった負い目も持った。「悪いことをしたわけではない、必要があったから書いたのだ」と……。
将来を嘱望された永尾だったが、その後は見えないプレッシャーに負けてパッせず、遊軍記者として欝々とした日々を送る。昔に書いた記事のスクラップを眺めては、「東日の一発屋」と自分自身で卑下したりもする。
あれから17年。目の前に、あの竹藤がいる。永尾には、どうしても彼が人を殺したとは思えなかった。殺害現場の状況を考えても不自然な点が多かった。永尾は孤独な取材を始め、記事を書くのだった。永尾は真実に辿り着くことができるのか。その真実は、竹藤を救うのか。そして男たちは、もう一度、輝くことができるのか。